<梅雨の窓辺>後編 読みもの
<梅雨の窓辺> 後編
鈍い音を上げて
画面が光るパソコンを眺めて、
少しずつ気分がシャンとしてくる。
今日は仕事は休みだが、
私にはやらなければならないことがあった。
職場の同僚が結婚することになり、
同僚たちでビデオメッセージを作ること
になったのだ。
その編集担当を任された。
私と同僚は同期で、独身時代は
よく一緒に飲みに行ったり
旅行に行ったりしたものだった。
そんな大切な同僚が
結婚することは私にとって
とても嬉しいことに
違いなかったけれど、
同時にどこか寂しいような
気もしていた。
私には今恋人はいない。
従って結婚の予定ももちろん無い。
もう33歳になり、両親からの
圧を感じるようになってきた。
最近実家へ帰るのが
少しおっくうになっているのは、
他ならない両親からの
プレッシャーのせいだった。
「結婚、かぁ」
編集画面を広げながら
ポツリと呟くと、
まるで窓の外の雨模様に
滲んで溶けていくように、
言葉が宙を舞って消えていった。
ちらっと窓に視線をやり
こんな天気だから
こんな気分になるんだ、
と自分に言い聞かせる。
そしてひとつ深呼吸して、
編集作業に取り掛かった。
笑顔で「おめでとう!」
というメッセージを口にする
職場の仲間たちの短い動画を
1本の動画に繋ぎ合わせていき、
バックで流す曲を選び、重ねる。
作業に没頭するうちに、
私は気付いたら
先ほどの沈んだ気持ちから
幸せな気持ちになっていった。
同僚が職場の仲間たちから
愛されていること、
そして結婚を心から
祝福されていることが、
自分のことのように嬉しくなった。
そんな時、一通のメッセージが
同僚から届いた。
「ちょっと前に転職した同期の子と
バッタリ会って今度飲もうって話に
なったんだけど、一緒に飲まない?」
というメッセージだった。
そのメッセージを見て、
私は「ふ」と笑みを零した。
結婚してしまう同僚を、
どこか遠くへ行ってしまうように
感じていたが、それは私の
思い込みに違いなかった。
同僚は結婚しても変わらない。
もちろん、生活は変わるだろうし、
妊娠出産したら自由は減るだろう。
でも、心まで遠くへ行ってしまうことはない。
私は編集の手を止めて、
また温かい飲み物を飲もうと
食器棚に手を伸ばした。
ミルクティーを飲んだ時に
使ったカップに手が触れる。
そう言えば…
このカップも、
同僚と一緒に旅行に行った時に
買ったものだったな…
そんなことを思い出して、
私は再びそのカップを手に取って
今度は気持ちを切り替えるべく
熱いコーヒーを淹れることにした。
窓の外はずっと変わらない雨模様。
でも、私の心の暗雲は
どこかへ飛んでいったようだ。
私はフンフンと
小さく鼻歌を歌いながら
コーヒーを淹れた。
陶器のカップから立ち上る
香ばしい匂いが、私の心と頭に
スッキリとした晴れ間を作った。
~おしまい~
(この物語はフィクションです)