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七夕 <小さな願いごと>~後編~

2020年6月22日読みもの

~後編~

七夕当日、幼稚園に息子を迎えに行くと、
先生が「みんなで笹に短冊を飾ったので、
見ていってください」と言ってくれた。

 

部屋の中にはキラキラと飾られた笹が
立てかけられて、
そこに園児たちの短冊がたくさん揺れていた。

 

 

笹の枝を担任の先生お気に入りの2体の
シーサーの置物が挟み込むように支えて
いるのがどこかコミカルで、
思わず笑みが零れる。

 

ぎこちない文字で書かれた短冊を
ひとつひとつ手に取って見ていく。

 

「せんたいレンジャーになれますように」

「パンやさんになれますように」

など、かわいらしい将来の夢を書いている子が多い中、

 

「ブロックがほしいです」

「あたらしいゲームがほしいです」

と、思わずクリスマスじゃないんだから、
とつっこんでしまいたくなるような
微笑ましいものもあった。

 

そして

「おかあさんのびょうきがよくなりますように」

「おとうさんがしごとからはやくかえってきますように」

「いもうとがはやくうまれますように」

 

など、家族のことを書いている素敵な
短冊もあった。

 

みんなそれぞれ、個性が溢れていて、
子どもらしく可愛らしく、ほっこりと
和むようなものばかりだった。

 

うちの子は何を書いたんだろう、

そう思って探してみると、
異色な短冊が目に留まった。

 

「おりひめとひこぼしが
1ねんに1かいだけじゃなく
1ねんに3かいぐらいは
あえるようにしてほしい」

この短冊を書いた主は、
紛れもなく我が子だった。

名前のところに我が子の名前が
しっかりと書かれていた。

 

この絶妙な感性に、
私はすっかりやられてしまった。

 

人によってはなんて心優しい子だろう
と思ってくれるかもしれない。
「きっと幼稚園の先生が七夕の話をしてくれて、
それで1年に1回だとかわいそうだと思ったのね」
と評価してくれるだろう。

 

しかし、「1年に3回ぐらいは」という
部分に、母は笑わずにはいられない。

 

実は、この1年に3回ぐらいというのが、
息子がミキちゃんに会える頻度なのだ。

 

息子が大好きな従妹のミキちゃんとは、
年に大体3回ほど会っている。
お正月と、夏休みと、それから
ゴールデンウィークだ。

 

こんなに小さいのに「年に3回会っている」
と認識しているのか、
それともただの偶然か、
おそらく偶然の数字だろうが、
それでも「3回」という数字に、
私は思わず口もとが緩んでしまった。

 

一応確かめてみようと思い、
息子の手を引いて家に帰る道すがら
「ねぇ、どうして1年に3回ぐらいって書いたの?」
と聞いてみると、

 

息子は「だって、3回は多いじゃん!」
と胸を張って答えた。

 

やはり、ミキちゃんと年に3回会っている
という認識は無かったらしい。

 

「ミキちゃんと会うのも年に3回ぐらいだもんね」

そう言うと、息子は「そうなの!?そっかぁ。
じゃあミキちゃんが織姫で、僕が彦星なんだね」
と笑った。

 

この感性と優しさと、それからミキちゃんへ
の気持ちを大切に、
このまままっすぐ育ってほしい。

 

私は心の中の短冊にそんな願いを書き留めた。